借用書がない場合の借金の時効援用
1 借用書とは
ここでいう借用書とは、金銭借用書ということになります。
この借用書の作成者は金銭消費貸借の借主で、宛名は貸主になります。つまり、借主が作成して貸主に差し入れる文書ということになり、当事者双方が署名捺印して作成する契約書とは異なるものになります。
その内容としては、一定額の金銭を借用し受領したことと、その借用の条件が記載されます。
借用の条件には、主要なものとして、返済期限、返済方法、利息、遅延損害金、期限の利益喪失条項があります。
このように、借用書は借主が作成して貸主に交付するものですので、原本は貸主が保管しており、借主は、保管しているとしてもコピーになります。
貸主は、借主からの返済が滞った場合、貸金返還請求訴訟を提起することができますが、借主から交付を受けた借用書は、金銭を貸し付けたことの証拠として利用することができます。
他方、貸主から貸金返還請求訴訟を受けた借主は、請求された貸金を既に返済していると主張する場合は、貸主の領収書や振込明細などを証拠として提出する必要があり、借用書のコピーは、返済の証拠としては基本的に役には立ちません。
2 借用書がない場合の借金の時効援用
時効援用とは、消滅時効期間が経過した借金について、消滅時効の効果を確定させるために行うものですので、時効援用手続きに借用書は必要ありませんし、そもそも借用書は消滅時効を援用する借主が貸主に差し入れるものですので、原本は借主の手許にはありません。
そして、借用書を差し入れるような借金について時効援用を行うのは、例えば弁済済みの借金について貸主から返還請求を提起されたものの、弁済についての証拠を準備するのが難しい場合に、消滅時効の援用を主張して(もちろん消滅時効期間が経過していなければ主張できません)貸主の請求を退けるようなケースで、このようなケースでは、貸主から証拠として借用書が提出されるのが通常です。
このように、借金についての時効援用は借用書がなくても全く問題なくすることができますが、以下のようなケースでは、借用書のコピーがあったほうが手続きを進めやすいでしょう。
例えば、Aさんが借用書を差し入れてBさんから金銭を借り入れたものの、Aさんがその後リストラに遭い収入が途絶えてしまったため返済が困難になり、その旨Bさんに話したところ、Bさんから、それなら返済はもういいよ、と口頭で言われたとします(借用書原本の返還は受けていません)。
それから長期間が経過し、AさんとBさんは疎遠になっていたが、AさんはBさんからの借金が気がかりで、免除されたと言ってもBさんから口頭で言われただけで、借用書の原本もBさんが保管している可能性があるので、先手を打って消滅時効の援用をしようと考えた場合、消滅時効の援用を行うためにはその対象となる貸金債権を特定する必要がありますが、Aさんの記憶だけでは特定できない場合、貸金債権の内容が記載されている借用書はその特定の手掛かりになります。
もちろん、このケースは机上設例で、現実的にはあまり考えられません。
そのため、時効援用の手続きの際に借用書のコピーが必要になるケースは、現実的にはほとんどない、と思っていただいて問題ないでしょう。