時効の援用とは
1 民法の規定
民法166条1項は、「債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。」とし、1号で「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。」、2号で「権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。」と規定しています。
この条文を読む限り、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間権利を行使しなかったら、その権利は当然に消滅するようにも思われます。
しかし、民法145条は、「時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」と規定しています。
民事訴訟では、例えば原告から100万円の貸金の返還を求められた被告が、実際には100万円全額を既に返済していても、その返済の事実を訴訟で主張しなければ、裁判官は判決を言い渡すにあたり、返済の事実を考慮することはできません。
これを専門用語で弁論主義といいます。
消滅時効の主張についてもこの弁論主義が適用されますので、民法145条はこのことを規定したと解釈することも可能ですが、そうなると、民事訴訟の一般原則である弁論主義をなぜ消滅時効についてあえて明記したのか、という疑問が生じます。
2 最高裁判決
この点について、昭和61年の最高裁判決は、「時効による権利消滅の効果は、時効期間の経過とともに確定的に生ずるものではなく、時効が援用されたときにはじめて確定的に生ずるものと解するのが相当であ」る、としました。
つまり、消滅時効の規定による債権消滅の効果は、消滅時効期間の経過によって当然に生じるわけではなく、債務者等が援用してはじめて生じる、ということになります。
3 援用の方法
このように、消滅時効の効果は援用があってはじめて生じますので、債権回収会社等は、消滅時効期間が経過している債権でも、消滅時効の援用がなされていなければ、債務者に対して支払いの催促をしたり、訴訟を提起して請求しているわけです(消滅している債権の請求は架空請求であり違法行為になります)。
このような債権回収会社等に対しては、裁判所の手続外で支払いの催促等が行われている場合は内容証明郵便を利用して時効援用の通知を送付します。
裁判所の手続で請求されている場合は、その手続きで消滅時効の主張をすることになります。
消滅時効の主張をせずに放置すると、原告である債権回収会社等の請求を認める判決が下されてしまいます。
詳しくは、弁護士までご相談ください。